このサイトでもお知らせしておりました通り、2017年7月22日に、気象衛星ひまわりシンポジウムが開催されました。
以下、その模様をお伝えします。


会場の一橋記念講堂です。
今回のシンポジウムはほぼ満席ということで、気象衛星に関する皆様のご関心の高さに驚きました。
なお、気象衛星ひまわり運用事業株式会社も、本シンポジウムを後援しています。

まず基調講演として、元JAXA理事の堀川康氏よりお話がありました。
堀川氏は40年前の初代ひまわり(GMS)から気象衛星ひまわりに携わってこられた方です。
当時、米国から宇宙開発の技術を取り入れるために並々ならぬ苦労があったことが伺えました。
GMSの開発メーカである米国のヒューズ社に駐在し、粘り強いコミュニケーションを通じて徐々に技術情報を得たことや、その内容をまとめた駐在員報告書が後にNASDAで衛星開発のバイブルとなった話など、40年前の貴重なお話を伺うことができました。

次に、気象庁観測部気象衛星課の宮本仁美課長より講演がありました。
宮本氏は、HOPEとしても日頃からお世話になっている方です。
ひまわり8号/9号のデータ量が、初代ひまわりに比べて400倍になっているお話や、ひまわりが観測した気象データは世界各国で使用されており、国際協力にもなっていることが紹介されました。
特に、 1999年の運輸多目的衛星1号(MTSAT-1)打上げ失敗に伴い、米国のNOAA(海洋大気庁)からGOES-9衛星を借りて気象観測を継続したお話では、実用衛星におけるバックアップ機の重要性を改めて実感しました。

その後のミニプレゼンとパネルディスカッションでも、多様な業界の方から興味深いお話がありました。

■井田 寛子さん(気象予報士、 TBS「あさチャン!」気象情報担当)
天気キャスターの一日の仕事の流れを解説いただきました。朝の情報番組の天気コーナーの事前準備として、午前2時に起床され、天気の実況や予報をチェックされているそうです。
ひまわり8号の運用開始に伴い、衛星から捉えた雲の動きなどが非常に滑らかになり、視聴者に分かりやすく伝えるために役に立っているとのことでした。

■三好 建正さん(理化学研究所 計算科学研究機構)
スーパーコンピュータ「京」の専門家の三好さんからは、数値シミュレーションについてお話いただきました。
天気予報の精度を向上させるためには、精度のよい観測データを「同化」させることが必要だそうです。
また、スーパーコンピュータは「タイムマシン」であり、10年後に普及する技術を使用して今研究を行っている(いわば未来を切り開いている)というお話が印象的でした。

■可知 美佐子さん(JAXA 地球観測研究センター)
高度3万6000kmの静止軌道から地球を観測する「ひまわり」と、地表に近い低軌道を周回する地球観測衛星のそれぞれの長所と短所を解説いただきました。また、世界の様々な衛星のデータを組み合わせて気象情報を提供している例として、JAXAのGSMaP(衛星全球降水マップ)を紹介いただきました。

■郷原 健さん(損害保険ジャパン日本興亜株式会社)
上述の「GSMaP」を活用し、東南アジアの農業分野向けに「天候インデックス保険」を提供することで、天候や自然災害リスクからを現地の小規模農家を守るという国際貢献の事例が紹介されました。
衛星観測には、地上観測ができない場所(海上や僻地)もリモートで観測できるというメリットがあり、まさにそれを活かした事例だと感じました。
一方、これらの衛星データをビジネス利用するにあたり、精度や信頼性をどのように評価・説明していくかが課題であるというお話が印象に残りました。

■佐々木 華織さん(農研機構 農業環境変動研究センター)
農業分野における気象データ利用に関してお話いただきました。農家の高齢化に伴い、生産性向上への取り組みがますます重要になってきているとのことです。特に、日射量は農業と深い関わりがあり、ひまわりによる予報精度向上へ期待しているとのことでした。

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気象衛星ひまわり8号・9号の運用に携わる一員として、改めて社会におけるひまわりの重要性や、そのデータ活用の幅広さを知ることができ、大変有意義なシンポジウムでした。